まだまだ朝晩は冷え込むものの、穏やかで暖かい春の日差しが感じられるようになってまいりました。今日の佳き日、PTA会長 吉岡英明 様を御来賓としてお迎えし、保護者の皆様にも御臨席いただき、埼玉県立羽生高等学校 第五十二回 卒業証書授与式を挙行できますことは、大きな慶びでございます。
本日、本校を巣立っていく六十名の卒業生の皆さん、おめでとうございます。 そして、本校の教育活動に多くの御支援と御協力をお寄せくださった保護者の皆様にも、御礼と共に、心よりのお祝いを申し上げます。
卒業生の皆さん。皆さんは、本校の門をくぐった時期の違いや年齢の差、それぞれのアイデンティティーの違いなどを超えて、幅広い友情を育み、高校生活を立派に送ることができました。また、新型コロナウイルス感染拡大防止のために多くの学校行事が中止となったり、従来と大きく異なる形で実施されたりする様々な制約の中で、勾玉祭や翔羽祭、球技大会などの学校行事はもとより、部活動や生活体験発表会などにおいても見事な成果を上げてくれました。今でも、皆さんが活躍している姿が目に浮かんでまいります。
そして、そんな充実した高校生活の締めくくりとなる希望進路の実現においても、皆さんは、例年にない大きな成果を残しました。これらのことは、皆さんの後輩たちの良き手本、目標にもなります。卒業にあたり、胸を張って誇って良い、素晴らしいことです。本校校長として、たいへん嬉しく思います。
さて、「友愛、自立、飛翔」の言葉どおり羽ばたいていく皆さんが、卒業後も自分自身を成長させていくことを期待して、餞の言葉を送ります。
まず、皆さんは多くの人との関わりのなかで生きているということを忘れないでください。
コロナ禍の中で、人と人とのコミュニケーションがデジタル機器をとおした間接的なものになっているという社会状況があります。しかし、だからこそ、現実に人間同士がふれあう機会を持ち、共に喜び、感動し、助け合う心を育むことが大切になってきます。戦争を起こす人の多くは、人の命を単なる数字やデータとしてとらえているのではないかと私は考えています。
この一年間、私は皆さんに「命と時間ときまりを大切にしましょう」と呼びかけてきましたが、卒業しても、いくつになっても、それは変わりません。 その大切さは、実際に人と人とが関わりあい交流を深めることでこそ実感できるものだと私は考えています。自分と違う考えの人と触れあうことによって、心の中に育つものがあるのです。
次に、「事は、起こるものだ」ということを、忘れないでください。
人生の中には、どんなに努力しても、実現できないことがあります。また、この卒業式の前に黙祷をいたしましたが、大切なときに自然災害に遭ってしまうということも起こり得ます。コロナ禍のように思わぬ病気が襲ってくることもあります。そして今、テレビのニュースを見れば、よその国からの理不尽な暴力にさらされている人々の姿が目に飛び込んできます。
しかし、皆さん。本当の人間の価値は、事が起きてしまった、その後に、わかるものなのです。希望どおりいかないときや、予定どおりいかないときに、どうするのか。そこで、人としての価値が試されるのです。
皆さんの中で多くの人が、中学生の時に一度くらいは、「自分は高校に入学できるかなあ」と不安に思ったことがあるのではないでしょうか。あるいは、羽生高校生として学んでいる途中でも、「自分は、無事に卒業できるかなあ」と不安に思った人がいるのではないでしょうか。
しかし今、皆さんは卒業証書を授与されました。
言い換えるならば、皆さんは、自分にとって深刻なことや不安なことが起こった、その後に、頑張ることができた人たちなのです。
確かに、一度も失敗しないで人生を送るのは、立派で、めでたいことです。しかし、それ以上に立派で、それ以上に素晴らしいことは、何か事が起きてしまった後、もう一度立ち上がって頑張ることができる、ということなのです。
皆さんの人生は、今までよりも、これからの方が遙かに長いものです。今までよりも、これからの方が大変かもしれません。けれども、大丈夫です。皆さんは既にもう、乗り越えた経験を持っています。自信を持ってください。
皆さんは、先生よりも、保護者の皆さんよりも、賢く、心豊かで、幸せにならなければいけません。それは、私たちの世代にとっての希望であり、皆さんの世代にとっての権利であり、皆さんが、皆さんの子どもたちの世代に対して背負う義務でもあります。
整いませんが、この、希望と権利と義務が、皆さんへの餞です。
結びに、本校を巣立つ皆さんの今後の活躍と、ここに御臨席いただいたすべての皆様の御健勝と御多幸とお祈り申し上げて、式辞といたします。